「あきらめない関わり」のヒントがここにある
知的障害のある子どもと向き合う毎日の中で、「自分の対応はこれでいいのか」と悩むことがありませんか?
平岩幹男さんの『知的障害を抱えた子どもたち』は、そんな私たちに、医師としての知見とあたたかなまなざしをもって、具体的かつ実践的な支援のヒントを与えてくれる一冊です
言葉ではなく、「問い方」で見えてくる力
著者は外来診療で、会話のできる子どもに「朝ごはん何食べた?」→「昨日の夕ごはんは?」と尋ねるそうです。
この簡単な会話のやりとりの中で、短期・長期記憶の有無、質問理解、応答力などを多面的に確認しているというのです。
支援者として、「何ができるか/できないか」にばかり目を向けがちですが、「どんな問いかけをすれば、その子の力が自然に引き出されるのか」という視点は、まさに目から鱗でした。
治らなくても、関われる。そして、変われる
知的障害は医学的には「治らない」とされますが、著者は「だからといって対応しないのではなく、社会生活上の困難を減らすことが目的」だと強調します。
8歳でできなかったことが、15歳になってもできないとは限らない
この一文がとても印象的でした。
発達に時間がかかる子どもたちの中には、急激な成長より、ゆっくりと着実に積み重ねていく学びのプロセスがある。
私たち支援者が諦めてしまわないことこそが、最も大切な支援なのかもしれません。
怒るのではなく、きりかえる。ほめるのは「すぐ」
本書では、「がまんしたときに、それが自分の得になると理解させる」「怒りを消すのではなく、切り替える」など、行動の改善や情緒の安定につながる具体的な方法も多数紹介されています。
たとえば:
両腕をこする「すりすり法」での気持ちの切り替え
少し汗ばむ程度の運動で落ち着きを取り戻す
「まぁいいか」と口に出して言う練習
「できたらすぐほめる」が原則
どれも今日から実践できる内容ばかりです。特に、
褒めるタイミングは即時が基本
という原則は、支援者・保護者問わず大切な視点です。
「教える」より「学ぶ環境をつくる」ために
著者が紹介する「6種類の硬貨から2枚選んで数える」練習も印象的です。
これは計算力だけでなく、注意力・操作性・視覚認知などの複数スキルが必要となる活動です。
単純なドリルではなく、子どもの発達全体に目を向けた課題設定を意識する大切さに気づかされます。
また、「要求する」「選択する」「諾否を伝える」などの最低限のコミュニケーション力が、日常生活において何より重要であるという視点は、支援の優先順位を見直すきっかけにもなりました。
まとめ:「決定打」はなくても、工夫と希望がある
平岩氏は「これがあれば大丈夫、という決定打は見つかっていない」と正直に綴っています。
それでもこの本には、試行錯誤を大切にし、子どもの力を信じて関わろうとする温かいまなざしが詰まっています。
知的障害のある子どもたちに関わるすべての人に、ぜひ読んでほしい実践的で誠実な一冊です。