「できない」を責めるより、「わかる仕組み」をつくる
子どもの「わかっているはずなのに、できない」。
この小さなギャップに、日々悩む保護者や支援者は少なくありません。
西永堅さんの『子どもの発達障害と支援のしかたがわかる本』は、その“わからなさ”の正体を丁寧に言語化し、「支援のしかた」を具体的に教えてくれる実践書です。
「いけない」と言っても伝わらない理由
本書の中で印象的なのは、次の一文です。
「『何々がいけない』という指示は抽象的であり、イメージがしにくい」
確かに「廊下を走らない」と言われても、頭の中に「どうすればいいのか」という具体的な映像が浮かびにくい。
著者は、「廊下を歩く」や「廊下では静かに歩こう」など、望ましい行動を明確に伝えることの重要性を説いています。
つまり、行動を否定するよりも、「どうすればいいか」を示すことが、理解と安心につながるのです。
社会性の発達には「チャンスの数」が必要
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちは、仲間関係の理解や集団内でのルール認識がゆっくりです。
社会性の発達が遅れているので社会性の発達を促す機会が他人以上に必要なのに、その機会を逸してしまいがちであるという悪循環を生じている
この言葉は、支援現場の実感と重なります。
人と関わることが苦手な子ほど、“人と関わる経験”が減っていく。
だからこそ、支援者が“関われる場”を意識的に設計してあげる必要がある。
遊びやおもちゃ、短い共同作業の中でも、社会性を学ぶきっかけは作れます。
「時間の流れ」をつかむ力を支える
本書では、「時系列の処理」に注目している点も非常に興味深いです。
過去の記憶を今のことのように感じたり、未来を予測することが苦手だったりする。
これはASDや発達性協調運動障害の子どもたちにもよく見られる特徴です。
“予定が変わるとパニックになる”
“昨日の出来事を今のように怒る”
という行動の裏には、「時間を整理する力の未発達」が隠れています。
その支援として、著者は「見通し」「順序」「完了」を明示する工夫をすすめています。
時間を“感じさせる”だけでなく、“目で見せる”支援が有効なのです。
「聞く」と「話す」はセットで育つ
「聞くこと」の発達が遅れると、「話すこと」の発達も遅れると考えられます。
この因果関係を指摘している点も、本書の大きな特徴です
多くの支援現場では「話す練習」ばかりに注目しがちですが、まずは語彙を増やし、聞く力(ヒアリング力)を高めることが先。
語彙が豊かになれば、理解もスムーズになり、自分の考えを表現する力も自然に伸びていきます。
また、「黙読は内言を育てる一つの方法」との指摘も印象的。
内なる言葉を育てることで、子どもは自分の感情を整理し、考える力を磨いていく。
この発達プロセスを大切にする視点は、まさに教育と療育の橋渡しだと感じます。
「叱る」ことで大人が強化されている?
我々の叱るという行動が強化されてしまっている。
この言葉には、ハッとさせられます。
大人が“叱る”ことで一時的に行動が止まると、「効いた」と思ってしまう。
けれどそれは、本当の意味での支援ではない。
叱る側が安心するための行動になっているという指摘は、支援者にも耳が痛い部分です。
「ことば」で支える、やさしい支援の形
本書を通して感じたのは、「支援=特別なこと」ではなく、“伝え方”と“見せ方”を少し変えるだけで、理解の届き方が変わるということです
子どもたちの「わかる」を増やすことは、自信を取り戻す第一歩。
それを理論ではなく、実践レベルで教えてくれるのがこの本です。
『子どもの発達障害と支援のしかたがわかる本』は、日常の関わり方を“ちょっと変えるだけで世界が変わる”ことを教えてくれる一冊。
支援者・保護者のどちらにも、何度でも読み返してほしい“現場の道しるべ”です。





